高圧受電設備の保守点検において、もっとも「責任」が重い場所。それが電力会社との境界線である責任分界点です。
新人の頃、先輩から「PASの試験をトチったら地域一帯を真っ暗にするぞ」と脅された経験はないでしょうか。今回は、現場で避けては通れないPAS(気中負荷開閉器)、UGS(地絡保護継電器付高圧交流負荷開閉器)、そしてその頭脳であるSOG(DGR)について、実務的な視点で深掘りします。
PASとUGSの役割:なぜ「最後の砦」なのか?
私たちが管理する設備内で地絡(漏電)や短絡(ショート)が発生した際、もし自分の所の遮断器が動かなかったらどうなるか。事故の影響は電力会社の配電線へと波及し、近隣の工場や病院、住宅まで停電させてしまいます。これが恐怖の「波及事故」です。
この波及事故を「自前の設備で食い止める」ために設置されるのが、PASやUGSです。
PASとUGSの比較
設置環境によって、使い分けるのが一般的です。
| 項目 | PAS (気中) | UGS (地中) |
| 主な設置場所 | 第一柱(電柱の上) | キャビネット内(地上設置) |
| メリット | 目視で状態(開閉)が確認しやすい。 | 塩害や鳥害に強く、都市部に適す。 |
| デメリット | 外気に晒されるため、経年劣化が早い。 | 内部が見えないため、ガス圧等の管理が必要。 |
SOGの構成を正しく理解する
まず、物理的な構成を整理しましょう。「SOG」はあくまで制御装置の名称であり、開閉器本体とセットで機能します。
SOGの主要な役割
SOG(Storage Overcurrent Ground)は、以下の2つの大きな役割を担っています。
SO(シーケンス開放)機能:過電流(短絡など)が発生した際、電力会社側の遮断器と連携して「無電圧」になってから安全に切り離す。
DGR(地絡方向継電器)機能:地絡事故の「方向」を判別し、自区内の事故のみをトリップ対象とする。
SO(シーケンス開放)機能:なぜ「すぐ開かない」のか
SOGのもう一つの重要な顔が「SO機能」です。これは主に短絡事故(過電流)の際に重要になります。
不動作再閉路(ノンリクローズ)と無電圧開放
PASやUGSなどの負荷開閉器は、大きな短絡電流を直接遮断する能力(遮断容量)を持っていません。無理に開くとアークで爆発する恐れがあります。
そこで、以下のシーケンス(手順)を踏みます。
- 過電流検知:SOGが大きな電流を検知し、「ロック状態」に入る。
- 電力会社側遮断:配電線の遮断器が落ち、電路が「無電圧」になる。
- SO動作:無電圧になったことを確認してから、SOGが開閉器を安全に開放する。
- 再閉路:電力会社が再送電しても、事故回路は切り離されているので波及しない。
内線規程(高圧受電設備)
高圧負荷開閉器を過電流ロック形とする場合は、受電点における短絡電流を遮断する能力を有しないため、必ず上位遮断器との保護協調(SO機能等)を確保すること。
DGR(地絡方向継電器)のキモは「位相」にあり
「地絡=漏電だから、電流だけ見ればいい」というのは大きな間違いです。高圧回路では、他人の家の事故でも自社のケーブルから電流(I0)が漏れ出します(もらい事故)。
これを見分けるのが、電圧(V0)と電流(I0)の位相差です。
方向判別のロジック
- 自区内事故:電圧に対して電流の位相が「動作領域」に入るため、即座にトリップ信号を出す。
- 外部事故(もらい事故):電流の位相が逆転し「不動作領域」に入るため、トリップをロックする。
実務での点検・試験の勘所
年次点検では、実際に試験器を繋いでSOGが正しく動作するかを確認します。
試験時の主要項目と判定基準
| 試験項目 | 判定基準の目安 | 現場のコツ |
| 最小動作電流 (I0) | 整定値の±10%以内 | 0.2A整定なら0.18〜0.22Aで動くか。 |
| 動作時間 | 0.2秒整定で0.15〜0.25秒 | カウンターとの同期を確認。 |
| 位相特性 (DGR) | 動作範囲が±180°のうち適切か | 最感度角(進み60°付近)を確認。 |

現場で一番やってはいけないミスは、試験器の配線ミスです。特にZCT(零相変流器)の二次側k, lや、ZPD(零相電位検出器)のVa, Vb, Vcの接続を逆にすると、位相が反転します。
「自分の試験器の中では正常」に見えても、結線が逆だと実際の事故時に動かない、あるいは他人の事故で落ちるという致命的な設定ミスになります。端子台のマークを指差し確認するのは、このためです。
用語解説:SO(シーケンス開放)と不動作再閉路
点検中にSOGの仕様書を読むと出てくる、少しマニアックな用語を整理しましょう。
慣性不動作
落雷などの一時的なサージ電流で誤動作しないための機能です。一瞬のノイズで「波及事故」を起こさないよう、継電器には一定の「タメ」が必要です。
現場で起こりやすいミスと安全対策
試験用電源の確保
SOG試験には100V電源が必要です。キュービクルから取る場合、操作回路のブレーカーを落としていないか、逆に試験後に戻し忘れていないかを必ず確認してください。
ZPDのコンデンサ分圧
V0を検出するZPDは繊細です。高圧絶縁抵抗測定(メガー)を行う際、接続したままだと高電圧でZPDを壊す恐れがあります。「メガーをかける時はZPDのリード線を外す」。これは鉄則です。
まとめ:技術者の誠実さが「停電」を防ぐ
PASやUGS、そしてSOGは、普段はひっそりと電柱の上やキャビネットの中に佇んでいます。しかし、いざという時に「確実に動く」か「余計な動きをしない」か、その信頼性は私たち電気管理技術者の試験精度にかかっています。
- 位相管理を疎かにしない。
- 経年劣化(更新推奨時期10〜15年)をしっかり指摘する。
- 結線確認を徹底する。
地味な作業の積み重ねこそが、地域の電気の安定を守る唯一の道です。
法的根拠・基準
- 電気設備技術基準の解釈 第38条(地絡遮断装置の設置)
- 内線規程 1350節(高圧受電設備の保護)
- JIS C 4607(地絡保護継電器付高圧交流負荷開閉器)


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