「月次点検でB種接地線をクランプしたら、100mAも出ている!これって漏電?」
電気管理技術者として現場に出始めの頃、誰もが一度は焦るポイントです。
実は、クランプメータで測れる「漏れ電流(Io)」には、絶縁不良によるものだけでなく、機器の構造上どうしても流れてしまう成分が含まれています。
今回は、現役の電気管理技術者である私が、漏れ電流の正体と測定の極意を解説します。
漏れ電流の正体:IoとIorの違いを理解する
現場でクランプメータ(リーククランプ)を使って測定している値は、正確にはIo(全漏れ電流)と呼ばれます。
Ioの構成要素
漏れ電流(Io)は、ベクトル合成で見ると以下の2つの成分から成り立っています。
- Ior(抵抗分漏れ電流):絶縁不良(キズ、吸湿、劣化)によって流れる電流。いわゆる「本当の漏電」。
- Ioc(容量分漏れ電流):電線と大地の間の静電容量や、ノイズフィルタのコンデンサを介して流れる電流。絶縁が悪くなくても流れる。


最近のOAビルや工場は、インバータ機器やPCが大量にあるため、Iocが非常に大きくなっています。B種接地線で「Io=200mA」なんて数値が出ても、そのほとんどがIoc(容量分)で、肝心のIor(絶縁不良分)は数mAということもザラです。Ioの値だけで「即停電!」と騒ぐのは禁物ですよ。
法律で決まっている「1mA」の根拠
漏れ電流を語る上で外せないのが、電気設備技術基準(電技)です。
電気設備に関する技術基準を定める省令 第58条
電気使用場所における低圧の電路の絶縁性能は、開閉器又は過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとに、次の表の上欄に掲げる電路の使用電圧の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる絶縁抵抗値以上でなければならない。
(中略)
二 絶縁抵抗測定が困難な場合において、当該電路の使用電圧が加わった状態における漏えい電流が、1mA以下であること。
漏れ電流と絶縁抵抗の判定基準表
現場で即座に判断できるよう、表にまとめました。
| 電路の区分(対地電圧等) | 絶縁抵抗値 | 漏れ電流(Ior相当) |
| 150V以下の電路(単3、単2 100V) | 0.1MΩ以上 | 1mA以下 |
| 150V超え300V以下の電路(三相200V) | 0.2MΩ以上 | 1mA以下 |
| 300Vを超える電路(400V級) | 0.4MΩ以上 | 1mA以下 |
例:100V回路では、オームの法則 R=V/I より、100V/1mA(0.001A)=0.1MΩ(10000Ω)となります。
※電技解釈第14条に基づき、絶縁抵抗測定が困難な場合に限り「1mA以下」が適用されます。
現場で役立つ!漏れ電流測定の具体的ステップ
月次点検のルーチンで行う測定のコツを伝授します。
B種接地線の漏れ電流を測る
まずは変圧器のB種接地線をクランプします。これがその系統の「トータル漏れ電流」です。
ここで数値が高ければ、各分電盤へと追いかけていくことになります。
零相電流(ZCT方式)で測定する
特定の回路を調べるときは、単相2線式なら2本、単相3線式なら(中性線を含む)3本、三相も3本(4線式なら4本)のすべての電線をまとめてクランプします。これを「零相電流測定」(漏れ電流測定)と呼びます。


現場の太い電線(幹線)を測るときは、クランプの口がしっかり閉じているか指で確認してください。少しでも隙間があると、磁束が漏れて数値が跳ね上がります。また、周囲に大きな電流が流れている電線があると誘導を受けるので、クランプの向きを変えて値が変わらないかチェックするのもプロの技です。
現場を悩ませる「高周波成分」と「インバータ」
「漏電遮断器(ELB)が落ちていないのに、漏れ電流計の値が高い」という事象によく遭遇します。これはインバータが原因であることが多いです。
高周波漏れ電流
インバータのスイッチング動作により発生する高周波成分が、対地静電容量を介して漏れ出します。古いリーククランプメータだと、この高周波を拾いすぎて異常に高い値を示すことがあります。
- 対策: フィルタスイッチ付きのクランプメータを使用し、商用周波数(50/60Hz)成分だけを抽出して測定します。
Ior測定器(活線絶縁抵抗計)の活用
Ioでは判定がつかない場合、Ior測定器の出番です。
Ior測定の仕組み
Ior測定器は、電路の電圧波形を基準(リファレンス)として取り込み、電流波形との位相差を演算することで、抵抗分(Ior)のみを算出します。
- メリット: 活線状態(電気を止めない状態)で、実質的な絶縁抵抗値が把握できる。
- デメリット: 電圧を取るためにコンセントや端子台にクリップする必要があり、Io測定より手間がかかる。
現在は電圧要素を必要としない、クランプだけでIor測定ができる機器をマルチ計測器様が販売しています。
まとめ:異常を見逃さないためのチェックリスト
漏れ電流測定は、数値そのものよりも「変化」を見ることが重要です。
- 前回値との比較: いつもは10mAなのに今日だけ50mAなら、絶縁劣化の兆候。
- 天候の確認: 雨天時は屋外設備の湿気でIocが増え、数値が上がりやすい。
- 負荷の稼働状況: 特定の機械が動いた時だけ数値が上がるなら、その機器が怪しい。

最後は自分の「勘」も大事です。数値が高くても、盤内が乾燥していて焦げ臭い匂いもなく、異音もなければ、まずは落ち着いてIor測定に切り替えましょう。逆に、数値が1mA以下でも、ケーブルが白化していたりトラッキングの形跡があれば、それは立派な「異常」です。
「数値」に使われるのではなく、「数値」を使いこなしてこそ、信頼される電気管理技術者です。明日からの月次点検、クランプを持つ手に少しだけ「根拠」を乗せて測定してみてください。


コメント