「またか……」と思わずため息が出るような事故が、令和7年度も後を絶ちません。
産業保安監督部から発表された速報(令和7年度分)を見ると、自家用電気工作物の事故件数は122件と前年度より増加傾向にあります。特に我々電気管理技術者が最も恐れる「波及事故」は67件にものぼり、その約7割が保守不備、つまり我々の点検精度や設置者への更新提案がダイレクトに関係する内容となっています。
本記事では、最新の事故統計を紐解きながら、明日からの月次・年次点検で「どこを、どう見るべきか」という実務のディープな部分を解説します。
令和7年度の電気事故発生状況(速報値)
まずは、今年度の事故発生状況を整理しましょう。数字を知ることは、リスクの優先順位を決めることに繋がります。
| 事故区分 | 発生件数 (R7年度) | 主な原因 |
| 波及事故 | 67件 | 保守不備(自然劣化、手入れ不足) |
| 感電・死傷 | 12件 | 故意・過失(確認不足、無電圧確認の省略) |
| 破損事故等 | 43件 | 雷、小動物(鳥獣)、経年劣化 |
| 合計 | 122件 | – |
電気関係報告規則 第3条(事故報告)
「電気事業者は、その電力系統に属する電気工作物に関して、次に掲げる事故が発生したときは、報告しなければならない。(中略)
一 感電又は電気工作物の破損若しくは電気工作物の操作に伴い死傷者が発生した事故
二 電気火災事故
三 他の電気事業者に供給支障を及ぼした事故(波及事故)」
波及事故の主犯「保守不備」を現場でどう見抜くか
令和7年度も事故原因のトップは保守不備(70.1%)でした。その中でも、特に現場を悩ませるのが「高圧ケーブルの絶縁破壊」です。
水トリー現象によるケーブル絶縁破壊
多くの波及事故事例で指摘されているのが、水トリー現象による絶縁低下です。特に1990年代〜2000年代初頭のケーブルが更新時期を迎えており、地中埋設部でのトラブルが多発しています。

水トリーとは
ポリエチレン絶縁体中に微量に含まれる水分や異物が、高電界によって樹枝(トリー)状に広がり、最終的に絶縁破壊に至る現象です。
- 浸水: 端末処理部の不備やシースの損傷から水分が侵入。
- 電圧: 常に加圧されていることで劣化が進行。
- 測定: 通常のDC1000Vメガーでは予兆を掴みにくく、高圧絶縁抵抗測定が有効。

「メガー正常」を疑え
「去年の年次点検で2000MΩ以上あったから大丈夫」というのは、高圧ケーブルに関しては通用しません。水トリーは、事故の直前まで高い絶縁抵抗値を示すことがあり、ある日突然、地絡(G)事故が発生します。
コツ: 20年を超えた常に水没しているピット内を通るケーブルは、数値に関わらず「更新推奨」を強く設置者に進言しましょう。報告書に「更新の必要性」を明記しておくことが、万が一の波及事故時にあなたを守る証拠にもなります。
小動物侵入(鳥獣接触)を防ぐパテ埋めの執念
令和7年度の事例でも、ヤモリやヘビの侵入によるLBS(負荷開閉器)での短絡事故が報告されています。
侵入経路を断つ「指差し確認」
「こんな狭い隙間から?」という場所から彼らは入ってきます。
- 床下の貫通部: ケーブル引き込み口のパテが痩せていませんか?
- 換気口: 防虫網が破れていませんか?
- 扉の隙間: 歪みによって指が入るほどの隙間ができていませんか?


現場での「匂い」と「形跡」
キュービクルを開けた瞬間、独特の「獣臭」や「カビ臭」がしたら要注意。また、床面に小さな糞があったり、碍子の根元にクモの巣が張っている場所は、空気の流れがあり、小動物も通りやすい場所です。
感電事故ワースト「無電圧確認」の省略
令和7年度も作業中の感電死傷事故が12件発生しています。驚くべきことに、被災者の多くはベテランや有資格者です。
事故を招く「思い込み」の正体
- 出迎え方式の勘違い: 「自分の担当範囲は切った」と思っても、他系統(発電機や蓄電池、回り込み)が生きていた。
- 検電器の故障: 使う前に動作確認をせず、壊れていることに気づかなかった。
作業前の安全3ステップ
- 検電器のプレチェック: 既設の充電部または内蔵テストボタンで動作を確認する。
- 確実な検電: 絶縁手袋を着用し、作業箇所に近い充電部で検電を行う。
- 短絡接地器具の取付: 万が一の誤通電や静電誘導に備え、電源側に短絡接地を施す。

「死んでいる」と思うな、「生きている」と思え
現場では「停電させた」という言葉を過信してはいけません。私は、自分の目で遮断器の開放、検電器で確認するまで、その電線は「高電圧がかかっている」と思って触りません。特に出迎え方式や、高圧受電盤が複数ある現場では、図面と現物を照合することをルーチン化してください。
現場で役立つ!判定基準と試験電圧まとめ
実務で「これ、数値大丈夫かな?」と迷った時に参照してください。
| 点検項目 | 判定基準(例) | 根拠・備考 |
| 高圧絶縁抵抗 | ※1,000MΩ以上(望ましくは6,000MΩ以上) | 電技解釈 第14条 |
| 低圧絶縁抵抗 | 0.1MΩ(150V以下) / 0.2MΩ(300V以下) / 0.4MΩ(300V超) | 電技解釈 第58条 |
| 接地抵抗(A種) | 10Ω以下(計算値により緩和あり) | 電技解釈 第17条 |
| B種接地電流 | 変圧器容量等によるが、概ね 50mA〜200mA以下を管理目標 | 常時漏れ電流の監視 |
※法令上、高圧電路は「絶縁耐力試験」に耐えることが求められますが、日常点検でのメガー値の良否判定については明確な法的数値がありません。
まとめ:事故ゼロは「小さな違和感」を見逃さないことから
令和7年度の事故統計から見えるのは、「いつもの点検」の形骸化がいかに危ういかという教訓です。
- 波及事故対策: 高圧ケーブルは「経年数」を重視した更新提案を。
- 破損事故対策: パテの隙間ひとつ、網の破れひとつを「たかが」と思わない。
- 感電防止: 検電と短絡接地の徹底。自分自身の命を守る手順を省略しない。
我々電気管理技術者の仕事は、何も起きない日常を支えることです。「今日も異常なし」という報告書の重みを再認識し、現場に向かいましょう。
【参考】
令和 7 年度関東東北産業保安監督部管内 自家用電気工作物の電気事故について


コメント