ビルや工場の保安を担う電気管理技術者にとって、非常用発電機の維持管理は極めて重要な任務です。いざという時に動かなければ、保安上の責任を問われるだけでなく、大きな社会的不利益を招きます。
本記事では、実務者が現場で迷わないための試運転手順と、年次点検時に必須となる「起動防止」の勘所を解説します。
非常用発電機の法的区分と点検基準
まず整理しておくべきは、設備の法的立ち位置です。
設置基準と自家用電気工作物
内燃力(エンジン)を原動力とする発電設備において、出力が10kW以上であれば、たとえ低圧受電の事業所であっても「自家用電気工作物」に該当します。そのため、電気事業法に基づき保安規程を遵守し、主任技術者による適切な維持管理が求められます。一方、10kW未満は「一般用電気工作物」となります。

月次点検における手動試運転の手順
月次点検では、無負荷での「手動試運転」が基本です。現場での操作フローを確認しましょう。
現場操作の手順
- 事前連絡: 発電機のエンジン音は想像以上に響きます。近隣トラブルを避けるため、設置者への事前周知は必須です。
- 切替: 発電機制御盤の「試験ー自動」切替スイッチを「試験」に切替えます。
- 起動: 「起動」ボタンを押し、エンジンを始動させます。
- 数値チェック: 以下の項目を測定・記録します。
- 発電電圧、周波数、回転数
- 水温、油温、油圧
- 外観確認: 異常な振動や、燃料・オイルの漏れがないか目視で確認します。
- 停止: 「停止」ボタンでエンジンを止めます。
- 復旧: 最後に必ずスイッチを「自動」に戻します。これを忘れると停電時に起動しません。
「試験モード」と「自動モード」の挙動と注意点
モードによる動作パターンの違いを正確に理解しておくことは、事故防止に直結します。
| モード | 主な動作 | 負荷給電 |
| 試験モード | 運転状態の確認(無負荷試験) | 基本的に給電しない(スイッチ操作で可能) |
| 自動モード | 商用電源の停電を常時監視 | 停電時に自動起動し、復電で自動停止 |

インターロックを理解しよう!
試運転(試験モード)は基本的に「無負荷」で行いますが、誤って負荷側へ給電しないよう、商用電源との間にインターロックが組まれています。位相が同期していない状態で商用側と接触すれば、甚大な短絡事故に繋がるからです。ただし、古い設備や特注盤では挙動が異なる場合があるため、必ず単線結線図を確認してください。
年次点検(停電点検)時の自動起動防止措置
年次点検などで受電設備を停電させる際、そのままでは発電機が「停電」を検知して自動起動してしまいます。これを防ぐための処置が重要です。
起動防止の手順と留意点
| 手順 | 操作内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 1. シーケンス動作確認 | 停電(MCCB開放等)により自動起動、復電(MCCB投入等)により自動停止することを確認 | ※この際、負荷側へ給電されるため、負荷設備を切り離した状態で実施します。 |
| 2. モード切替 | 操作モードを「試験」または「手動」へ | これにより自動起動を阻止 |
| 3. 制御電源遮断 | 制御電源用ブレーカー(CP等)を切る | ※要注意項目 |
| 4. 出力遮断 | 発電機用遮断器を切る | 逆送電防止の念押し |

制御電源操作のリスク
古い発電機の場合、制御電源のブレーカーを切ったことが引き金となり、内部基板が故障してしまうケースが報告されています。電子部品の経年劣化が激しい設備では、安易に電源を落とさず、モード選択スイッチのみで対応する判断も実務では重要です。
基本的には「切らない」運用が推奨されていますが、機器の状態もございますので、最終的な操作については個人のご判断にお任せいたします。
状態復旧の手順
点検終了後の復電操作は、順序を間違えると作業員が危険にさらされます。
復旧手順
- 発電機遮断器を投入する。
- 制御電源ブレーカーを入れる。
- 他の復電作業がすべて完了した後、最後に操作モードを「自動」へ切り替える。
- 復電前に切り替えると、復電操作の途中で自動起動してしまい、発電機から逆送電してしまう可能性があるためです。
現場で起こりやすいミスと対策
- 「自動」戻し忘れ: 試運転後のスイッチ戻し忘れは、電気管理技術者が最も恐れるミスの一つです。点検表や手順書に「赤字」でチェック欄を設けましょう。
- 冷却水の枯渇: ラジエーター液のレベル確認を怠ると、試運転中にオーバーヒートします。
- バッテリーの寿命: エンジン始動不良の原因の多くはバッテリーです。電圧だけでなく、製造年数による計画交換を設置者に推奨するのがプロの仕事です。
まとめ:信頼される点検のために
非常用発電機の点検は、単に「回れば良い」というものではありません。現場特有の「基板のリスク」や「近隣への配慮」を積み重ねることで、初めて質の高い保安が提供できます。


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