高圧ケーブルの水トリー対策と劣化診断

電気管理技術者として保安管理業務を行う中で、最も神経を遣う設備の一つが高圧ケーブル(CVケーブル)です。ひとたび絶縁破壊による地絡事故が発生すれば、需要家の全停電だけでなく、電力系統への「波及事故」に発展する恐れがあるからです。

本記事では、令和7年(2025年)に改定された「高圧受電設備規程(JEAC 8011-2025)」の最新動向を踏まえ、水トリー現象のメカニズムから現場での診断実務、最新のケーブル選定基準までを深掘りして解説します。


高圧ケーブルの構造と種類(E-E、E-Tタイプ)

高圧ケーブルの主力であるCV(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシース)ケーブルですが、その性能は構造で決まるといっても過言ではありません。

E-Eタイプ(3層同時押出)とE-Tタイプの違い

実務上、特に湿潤場所やピット内への施設では、この構造の違いが寿命を左右します。

項目E-Eタイプ(3層同時押出)E-Tタイプ(2層押出+テープ)
構造内部半導電層・絶縁体・外部半導電層を同時に押出成形内部半導電層・絶縁体を押出成形
外部半導電層に導電性テープを使用
水トリー耐性非常に高い(界面の密着性が良いため)E-Eに比べると低い(テープの隙間に水が溜まりやすい)
主な用途浸水リスクのある場所、重要路線一般的な乾燥した屋内配線など
最新規程の推奨JEAC 8011-2025にて浸水場所への採用を推奨採用が減少傾向(既設更新時はE-E推奨)

法的根拠と最新規程

電技解釈 第117条(高圧及び特別高圧の電線路の施設)において、ケーブルは水の影響を受けないよう施設することが基本です。これを受け、JEAC 8011-2025では「浸水等の影響がある場所への高圧ケーブルの布設などは、水トリーの発生を抑制する3層押出型架橋ポリエチレンケーブル(E-Eタイプ)の使用が望ましい」と明記されました。

参考用URL:住友HSTケーブル https://www.hst-cable.co.jp/tech_info/pdf/C-19016A.pdf


水トリー現象(Water Tree)の発生メカニズム

水トリーとは、絶縁体(架橋ポリエチレン)の中に微細な水が侵入し、電界のストレスによって樹枝状(ツリー状)に劣化が進む現象です。

水トリーの3つの形態

  1. 内導水トリー: 内部半導電層側から絶縁体に向かって進展。最も危険度が高い。
  2. 外導水トリー : 外部半導電層側から内部へ向かって進展。
  3. ボウタイ水トリー : 絶縁体内部の不純物やボイド(気泡)を起点に、両側に蝶ネクタイ状に進展。

なぜ水トリーが発生するのか?

  • 不純物・突起: 製造時の異物混入や、E-Tタイプのテープの「毛羽立ち」が電界を集中させる。
  • 水分の浸入: ケーブルシースの損傷や、端末処理不良による「呼吸作用」での吸湿。
  • 残留応力: 施工時の無理な曲げ(許容曲げ半径の無視)。

劣化診断:メガーと直流漏れ電流測定

年次点検や竣工検査において、ケーブルの健康状態を判断するための主要な手法を整理します。

絶縁抵抗測定(メガー)の限界と「G方式」の活用

高圧メガー(5000Vまたは10000V)による測定では、必ずG方式にて測定してください。

  • G方式測定の理由: 端末表面の汚れによる漏れ電流をキャンセルし、絶縁体内部の純粋な抵抗値を測るため。
  • キック現象: 指針が不規則に振れる「キック」が見られる場合、水トリーが貫通しかかっている「末期症状」と判断し、即時更新を助言すべきです。

直流漏れ電流測定の判定基準

より定量的な診断には、直流高電圧を印加する漏れ電流測定が有効です。

判定項目健全(良)要注意異常(不良)
漏れ電流値数μA以下で安定10μA以上または不安定50μA以上または急増
キック現象なし微少な振れ明確な振れ(キック)
三相不平衡率小さいやや大きい著しい差がある

キックを見逃すな

数値そのものよりも「針の動き」を注視してください。電流値が小さくても、ピクッ、ピクッと不規則に動く場合は、絶縁体の中で微小な放電が始まっている証拠です。これは「メガーで1000MΩ以上あっても、明日パンクする可能性がある」という現場特有のサインです。

交流重畳法

商用周波数(50/60Hz)に低周波の交流電圧を重畳させます。 水トリー劣化が発生していると、その部位が整流作用(ダイオードのような性質)を持つようになり、重畳した交流電圧が直流成分に変換されます。この微弱な直流成分(漏れ電流)を計測することで、劣化の進行度を判定します。

交流重畳法のメリットと留意点

項目内容
最大の利点無停電で診断が可能。生産ラインを止める必要がない。
検出能力水トリー劣化に対して非常に感度が高い。
判定基準直流成分が 5nA を超えると「要注意」、10nA 超で「異常」とされる。
注意点測定器の設置には高度な技術が必要。また、設備構成によっては測定できない場合がある。

直流漏れ電流測定との使い分け

  • 交流重畳法(活線): 定期的な「健康診断」として、トレンド監視(経時変化の把握)に最適。
  • 直流漏れ電流測定(停電): 竣工検査や、交流重畳法で異常が疑われた際の「精密検査」として実施。

参考用URL:東芝インフラテクノサービス https://www.toshiba-tts.co.jp/product/service-center/equipment-diagnosis/cable.html


現場で起こりやすいミスと安全対策

シュリンクバック(熱収縮)への配慮

ケーブルは負荷の変動による温度変化で、絶縁体が長手方向に伸縮します。これをシュリンクバックと呼びます。

  • リスク: 端末部で絶縁体が引き込まれると、防水処理に隙間ができ、そこから水が浸入して水トリーの原因となります。
  • 対策: JEAC 8011-2025では、ケーブルの支持固定やシュリンクバック抑制キャップの使用など、端末の防水維持に関する規定が強化されています。

管路内の養生水と「水抜き」

「管路内に水が溜まっているのは当たり前」と考えてはいけません。

JESC E0013(2025)

技術基準(JESC E0013)では、ケーブル引き入れ前に管路内の泥土や養生水を清掃・除去することが強く推奨されています。特にハンドホール内でケーブルが常時冠水しているような環境は、E-Eタイプであっても寿命を縮める大きな要因となります。


事故を未然に防ぐ!保安点検の「コツ」

  1. シースの目視確認: ハンドホール内やピット内で、シースに「膨くれ」や「ひび割れ」がないか入念にチェックする。
  2. 端末の防水テープ確認: 経年劣化でテープが硬化・剥離していないか。停電点検時に指で触れて粘着性を確認。
  3. 接地線の腐食: 遮蔽層の接地線(アース)が錆びて断線しかかっていないか。測定だけでなく、物理的な接触状態を確認。

音と臭いの感覚を研ぎ澄ます

キュービクルを開けた際、わずかな「オゾン臭」や「パチパチという音」がしたら、それは部分放電(PD)のサインかもしれません。高感度の超音波検出器などを用いるのも手ですが、五感を活用した初期発見が、大きな事故を防ぐ最後の手がかりになります。


これからの高圧ケーブル管理

高圧ケーブルの管理は「ただ測るだけ」から「環境を整え、構造で守る」段階へとシフトしています。

  • 新設・更新時は、必ずE-Eタイプを選定する。
  • 浸水環境を極力排除し、シュリンクバック対策を徹底する。
  • 定期的な直流漏れ電流測定を行い、トレンド(傾向)を管理する。

私たち電気管理技術者の使命は、こうした技術的裏付けに基づいた適切な助言を行い、需要家の資産と地域の安全を守ることです。


法的根拠・参考文献一覧

  • 電気設備に関する技術基準を定める省令 第36条(絶縁耐力)
  • 電気設備の技術基準の解釈 第117条(高圧及び特別高圧の電線路の施設)
  • 高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025
  • JESC E0013 (2025) 架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブルの保守管理指針
  • 電気技術者協会:高圧ケーブルの劣化診断技術資料

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